JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その14

これまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その3 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その4 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その5 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その6 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その7 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その8 - JuniperBerry’s diary 

笑う魚 その9 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その10 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その11 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その12 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その13 - JuniperBerry’s diary

 

「前からあなたの事が 好きではありませんでした! 

ペドロ 加勢しなさい!」

 ダ・シルバ氏は 逃げようとするガローチョの

上着の裾を掴んで ぐいと引っ張った。

ひょろりと細長いエンリケ・ガローチョの体は 

何の抵抗もなく後ろに引っ張られて 吹っ飛ばされそうになったが

手近にあった机に掴まって どうにか体勢を持ち直した。

 一方の ダ・シルバ氏は 手をわたわたと振り回して 尻餅をつき

その勢いで ゴロゴロと転がった巨体は 魚の水槽に

顔をペチャリと押し付けて やっと止まった。

 

 するとその時である 世にも不気味な

ぶおおおおおっ という音がして 水槽が激しく揺れ

じゃぶじゃぶと波打つ水面が 七色に光った。

ダ・シルバ氏の顔のすぐ横の水槽のガラスには

魚が巨大な口をパックリと開き ダ・シルバ氏を

飲み込もうとでもしているかの如く 押し付けられている。

 

「おおぉぉぉ」

 室内に歓声と拍手が湧き起こった。

 ヒゲとひれを 引きつったようにふるわせて

ダ・シルバ氏に向かって 大きな口を開けてのたうち回る

七色に光る魚を見て その部屋にいた全員が拍手喝采した。

 

「これがそうか」

「魚が笑っている!」

 誰もが魚に釘付けで

執事ペドロが ガローチョに そろそろと

近寄って行くのに 気づいていなかった。

 

「よくも旦那様を!」

 ペドロはそう叫ぶと 体の後ろに 隠し持っていた

魚の餌やり用のバケツを エンリケ・ガローチョの頭にかぶせた。

 何事かと もがくガローチョを羽交い締めにして 

水槽の近くまで引っ張って来て

バケツをかぶせたまま くるくると回し始めた。

 

 ガローチョは目隠しをされた状態で コマのように回されて、

手を離された後も 足下はおぼつかず

あちらにつまずき こちらにつまずき 

その間も バケツの中でわあわあとわめいている。

 

誰もが急な事に あっけにとられ

誰一人として 助けの手を差し伸べようとはしなかった。

 

 よろめくガローチョの足が 床に寝転がったまま

動き出せずに固まっていた ダ・シルバ氏の足につまずいた。

その勢いで ダ・シルバ氏のパンパンに膨らんだ腹を

踏み台にする形で 水槽の縁に向かって突進し 激突。

 両手を宙にばたつかせ、スローモーションのようにゆっくりと

頭から水槽の中にざんぶり落ち込んでしまった。

その時だった。

名無しの魚が それまでになかったような 

俊敏な動きで虹色に光る体を 大きく翻らせたのは。

 ダ・シルバ氏は咳き込むのを忘れ

召使い達は 歓声を上げていた口を覆い

アレハンドロは人々を押しのけて 水槽に駆け寄った。

 

 エンリケ・ガローチョの体は へその辺りまで

踊り狂う魚の口の中に くわえこまれていた。

あわれな二本の足は しばらくの間 ばたばたともがいていたが

その動きはすぐに緩慢になった。

 

その15に続く