JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

『笑う魚』 その1

 

 ピノーレ・ダ・シルバ氏は 

この地域一帯では 相当名の知れた 素封家である。

大規模なプランテーションから入る 潤沢な収入を存分に使い

趣味に明け暮れる 優雅な毎日を送っていた。

 

特に目がないのが 観賞魚である。

ダ・シルバ氏の広大な邸宅には 

魚の飼育専用の離れが 3区画あり

全世界から集められた 

極めて美しい または

おぞましくも珍妙な魚類を入れた 水槽が 

整然と並べられていた。

 

光る鱗に覆われた 

全身これ筋肉の 比類なき美しい姿

色とりどりの色彩。

彼らの泳ぐ姿を見る ダ・シルバ氏の意識は

贅肉に覆われた体を抜け出し

彼らと共に 水中を自由自在に 泳ぎ回るのだった。

 

ダ・シルバ氏は 金に困ることなく

体を動かして働く必要のない

この地方でいうところの「ヒメクトリ(選ばれし者)」である。

そして 選ばれし者の例に漏れず

極端な肥満体であった。

 

氏は宵っぱりの朝寝坊。

それというのも 夜行性の魚類を観察するため

ベッドに入るのが 早朝にずれ込んでしまうからだ。

 

ダ・シルバ氏は正午少し前に目を覚まし

寝転んだままで 執事に新聞を読ませ

チョコレートにひたしたドーナツを食べる。

そのまま 靴を履かせてもらい

使用人3人がかりで ベッドからおり

体型ぴったりにオーダーした服を着て

翼の線対称に位置する 細君の部屋を訪れ ご機嫌を伺う。

(なぜ、夫妻が寝室を別にしているかといえば

それは 氏がうっかり朝寝坊をした際のこと。

氏が寝返りを打ったはずみに 細君の上に乗っかって

細君は呼吸困難に陥った。

以来 寝室を共にすることを

金輪際拒否されてしまったからである。)

 

その後 百人は入れるであろう

広大な食堂におりて 6品に及ぶ昼食を2時間かけてとり

それ以降夕方までは

魚類関係書籍が溢れた書斎の 巨大なソファで

夜に備えて仮眠をとるのであった。

 

 その2につづく