JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その9

これまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その3 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その4 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その5 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その6 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その7 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その8 - JuniperBerry’s diary

 

ダ・シルバ氏は ペドロと使用人三人に 助け起こされ

パティオに運び込まれたベッドに 

どさっと大きな音を立てて 寝転んだ。

というのも、巨漢のダ・シルバ氏を 母屋まで連れて行くよりも

ベッドを運び込んだ方が ずっと簡単であったし

それに ベッドは運び方に 文句をつけたりしない。

 

眠った場所のせいもあったのだろうか

ダ・シルバ氏は 魚のギャラリーに囲まれ、

喝采を浴びながら女装して踊る夢を見た。

氏より頭三つ分ほど背の高い 名無しの魚が 

祝福のキスをしようと 大きな胸びれで氏を抱き寄せ

分厚い唇を顔に近づけて来る。

魚のキスはぴちゃりと冷たく 氏の顔に何回も降り注がれた。

 

髪が濡れたままで寝たような 気持ちの悪さに 

ダ・シルバ氏が 目を覚ますと

アレハンドロ・ナンブッコとエンリケ・ガローチョが

昨日の深酒の疲れなど 全く見せず 

晴れ晴れとした顔で ベッドの足の方に置かれた

肘掛け椅子に座って談笑していた。

 

ダ・シルバ氏が寝ぼけ眼をこすると 顔が濡れている。

顔だけではない、枕から服の襟まで びしょ濡れである

襟元に鼻を近づけてみると 何やら淀んだ臭いまでする。

「さては」と 二人をにらみつけた。

 

ピノ、おはよう。おっと、僕たちじゃないですよ。

この名無し魚が 君の顔めがけて シャワーを浴びせかけていたんです。

ベッドか水槽の場所を 移動させようとしたんだけど、

どちらも重すぎて 僕たちでは どうにもならなかったんですよ」

 

「それにしても顔に向かって百発百中。

この魚、目覚まし時計として飼ったらいかがです、といっても

あれだけ水をかけられて 起きるのがこの時間では

水槽の水が すっからかんになって

あなたを起こす前に 魚の方が干からびてしまうでしょうがな」

 何を言うにも 一言嫌みを言わずにはいられない ガローチョである。

 

 彼らが会話している その間にも 

魚は いかにもつまらなそうな顔をして

(といっても、ごく一般的な魚の顔ではあるが)

尾びれで水面をたたいては 

ダ・シルバ氏の枕元に向けて 正確に水しぶきを浴びせかけている。

 

ダ・シルバ氏は魚を睨みつけた。

「やめなさい、水浸しじゃないですか

風邪をひいたら どうしてくれるんです」

 

 

その10に続く