JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その13

これまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その3 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その4 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その5 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その6 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その7 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その8 - JuniperBerry’s diary 

笑う魚 その9 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その10 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その11 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その12 - JuniperBerry’s diary

 

ガローチョの怒りは収まらない。

「召使い達の前で このわしが 

このエンリケ・ガローチョが 男相手にタンゴを踊ったのだぞ。

それも全て ペドロ お前が嘘をつくからだ。

ダ・シルバに いくら掴ませられたんだ」

 ガローチョはいまいましそうに 執事を睨みつけた。 

 

「それはあんまりな言いがかりです ガローチョ様。

私がそのような人間に見えますか」

 

「人間なんて 皆そんなものだろう。

お前達はダ・シルバが払う金の為に この屋敷で働き

わしだって 彼の金で集めた魚達がなければ 

ここには いないだろうよ」

 

エンリケ 君の人間の本質に関する 偏見に満ちた意見は

自分の中だけに しまっておいた方がいいんじゃないかな」

 

「そうは言うがアレハンドロ 見てみろ この魚を

笑うどころか 黒い体が 焦げ茶色にさえ 変らないじゃないか。

こやつら二人がぐるになって 我らをかついでいるとしか思えんよ。

ダ・シルバは、私たちが必死に魚を笑わせようとしているのを見て

腹の中であざ笑っていたに違いないのだ」

 

 ダ・シルバ氏の いつも温和なまんまるの顔が歪んだ。

そして これまた まんまるふかふかのパンのような拳で

ベッドを思い切り叩いた。

「ガローチョさん あなた この私が金を払って

我が家の使用人に 嘘をつかせた と言っているんですね。

言っておきますが 私はあなたと違って 

人を疑いあざけるなんていう 下劣な趣味はもっていませんよ」

 ダ・シルバ氏の顔が真っ赤になったのを見て 

執事ペドロが慌てて駆け寄った。

 

「旦那様、そんなに興奮されると血圧が上がって

汚名を晴らす事なく 昇天してしまいますよ。

私、考えたのですが……」

「考える? これだけ馬鹿にされて 

思うだの考えるだのなどと言っていられますか」

「ですから、旦那様の汚名を晴らす為に

自分のプライドなど脇にのけて 考えたのですから

まずはお聞きください」

「わかった、早く言いなさい

これ以上 私を貶めるようなことになったら

それこそ減俸だからね」

 

「賄賂じゃなくて 減俸の脅しという手もあったな」

 エンリケ・ガローチョが 口の端を引き上げてつぶやいた。

この言葉がダ・シルバ氏の 堪忍袋の緒をすっぱりとちょんぎった。

 

ダ・シルバ氏は いつもの 緩慢な動作の片鱗も見せずに 

ベッドから飛び降りて エンリケ・ガローチョに向かって突進した。

 

その14に続く