JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その8

これまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その3 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その4 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その5 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その6 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その7 - JuniperBerry’s diary

 

慌てて走り込んできた執事は 床に転がっているダ・シルバ氏に

躓きそうになって 慌てて立ち止まった。

「旦那様、その格好は」

「いいから、ちょっとそこで 私を笑わせてみなさい。

そうだ 前見せてくれた 逆立ち踊りがいい」

「は?」

「踊りなさいってば」

「と おっしゃいましても……」

「全くお前ときたら わからない人ですね。

本当に笑ったかどうか 確認しようと思ったのに。

もういいです 多分見間違いです。

何をやってるんです 起き上がるから手をかしなさい」

 

 ダ・シルバ氏は 物わかりの悪い執事に 

業を煮やしながら 手をのばした。

ちなみに この執事 ダ・シルバ氏をそっくり小型化したような

横に丸々とした体形であった。

その上 起き抜けである。

その執事に 巨体のダ・シルバ氏がつかまったのであるから、

その結果は言うまでもない。

 

執事は 助っ人を三、四人 呼んでくるべきだったのだ。

ダ・シルバ氏にひっぱられ、よたよたとする間もなく

氏の腹の上にぼこんと乗っかった様子は、まるで親ガメの上に乗った子ガメ。

 

 と、その時、ぶおっっほという音がして 床がかすかに揺れた。

「だんなさま、大丈夫でございますか

私は旦那様のおなかを 破裂させてしまったのでしょうか」

「ばか、魚です、魚。

いいから 私の上から下りなさい。早く! 重いんですよ!」

 執事は 腹の上から転がるように降りて、

ひょいと立ち上がった。

 

 後ろの水槽の中では、名無しの魚が 

胸びれとひげを 引きつった様にピクピクと震わせている。

子鹿位なら軽くひとのみできそうな 巨大な口が大きく開かれ

鋭く大きな歯が 奇麗に並んでいるのが見える。

その胴体は 虹色に光って大きく波打っていた。

 

「だんなさま、笑う魚なんて初めて拝見しました」

「やはりお前にも これが笑ったと見えますか」

「まったく失礼な魚でございます。魚の分際でご主人様の事を笑うなんて」

「何を言うんですか。魚はお前を笑ったんです。

失礼なのはお前の方です。減俸しますよ」

「滅相もない、決して悪気があった訳ではなくて

ただ ちょっと間違えただけでございます」

 

その9に続く