JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その7

これまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その3 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その4 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その5 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その6 - JuniperBerry’s diary

 

 反動をつけて飛び起きようとした ダ・シルバ氏であったが、

起き上がるのに 人の手を借りている人間が

この状態で 自力で起き上がれるはずもない

うなり声を上げて 再度床にのびてしまった。

 

そして 天井を見ながらふと我に返った。

「今私は、笑うと言いましたか? 

馬鹿な 何を言っているんですかね。

魚が笑うはずないじゃありませんか。」

 

 独り言を呟くダ・シルバ氏と 名無し魚の目が合った。

水面はまだゆっさゆっさと揺れており、魚は水の流れに体を任せ

底の方でゆっくりと体を揺らしている。

昼間にはどんよりとしていた目が 今は生気を帯びてきらりきらりと光り、

長いひげはぴくぴくと小刻みに震えている。

しかし 先ほど虹色に光っていると見えた体は 黒褐色に戻っていた。

 

「もしかしておまえ、魚の分際で本当に笑いましたか? 

先ほどは種類を特定するのにかまけて

あの漁師がお前は笑うと言っていたのを すっかり忘れていました。

あの時は だから学のない者は困ったものですと

本気にしていませんでしたが……。」

 

「まさか? いやいや、そんな事はあり得ませんね。

夜行性だから、昼間と違った反応を見て 

笑っているように見えただけに違いないです。

しかし……ちょっとここは 慎重に考えてみなくてはなりません。」

 

 ダ・シルバ氏は寝っ転がった体勢のまま、大声で執事を呼んだ。

 

 どたどたっという騒がしい音がして、執事が飼育専用の

離れの一角に しつらえられた仮眠室から

ナイトキャップをくしゃくしゃに丸めながら 小走りにかけてきた。

顔の左半分には 枕の跡がうっすらとついている。

 

その8に続く