JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その6

ここまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その3 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その4 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その5 - JuniperBerry’s diary

 

 その夜、男達は夜遅くまでピンガ片手に

「出自不明の魚」について 意見を交わしたのだが

結論の出ないままに それぞれの寝室に戻っていった。

 

ただ一人パティオに残った ダ・シルバ氏は

どんよりとした目と長い図体をして

ゆらゆらとひげを揺らしながら

大きな水槽の中で 漂っている 

黒褐色の魚を 酔いで充血した目で眺めた。

 

「とうとう結論は出ませんでしたねえぇ

けれど、モレーラス博士でさえ 

はぁっっっきりとした事がぁわからないとなるとぉ、

やぁはり新種かもしれませんねっ。

なにしろ、かなり珍しい魚に違いないってぇことです。

いい買い物をしたものでっすうぇ」

 

 ダ・シルバ氏は片手にグラスを持って

酔っぱらい特有の足運びで 名無し魚を入れた水槽の周りを

よろよろと歩きながら この一連の独り言を続けていたが、

手近の椅子に座ろうとして足がからまり、どさりと床に尻餅をついてしまった。

手に持ったグラスは宙を飛び、派手な音を立てて床に砕け散った。

 

その途端 「ぶほっ」という 地の底を揺るがすような音がして

床の上に転がっていた ダ・シルバ氏の顔に 冷たい水しぶきがとんできた。

驚いたダ・シルバ氏 

起き上がろうと 慌てて手近の椅子の脚を掴んだが

生憎 彼の巨大な図体を支えるには か弱すぎた。

体重をかけた途端に 椅子はくるりと回転し 

ダ・シルバ氏の見事に丸い腹の上に 一撃を加え

バウンドして転がった

氏は、「うげっ」という声を上げて

その場にのびてしまった。

 

するとまた、じゃぽじゃぽという音がして

ダ・シルバ氏の全身に 冷たい水がふりかかった。

床に寝転がり 水槽の方に顔を向けた ダ・シルバ氏の目に

長い体をくねらせ 身を反らし

「こりゃあおかしくてたまらん」とばかり

洞穴のような口から 水を吐き出し続ける

名無し魚の姿が映った。

 

魚が口を大きく開く度に、ぶほっぶほっという

地の底に棲まう怪物の 咆哮にも似た音が響く

奇妙なことに、声を出す毎に

体を覆う大きな鱗が 虹色を帯びて

てらてらと怪しく光るのだった。

 

水浸しになった床の上に なす術もなく

ごろりと転がったまま 起きられなくなったダ・シルバ氏。

 

ひっくり返った黄金虫のような 自分が情けなく

濡れた服が ぺったりと張り付いて 気持ち悪く

自分がこんな事になっているにも かかわらず

使用人の誰一人として とんで来ない事に

人並みに傷ついた ダ・シルバ氏は

魚に八つ当たりした

 

「その ぶほぶほ言うのを止めなさい 

魚の分際で人間を笑うとは 失礼千万

フェイジョアーダにしてしまいますよ!」

 

その7に続く