JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その3

 

これまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

 

さて 地元の漁師や好事家が 珍しい魚を売りつけようと

ダ・シルバ氏の館を目指してやってくるのも この時間帯である。

テーブルでは  メイン料理 

チキンのフェイジョアーダが 下げられ

入れ替わりに マンゴーを山盛りに飾りつけた

デザートプレートが運び込まれてきた。

同時に 執事のペドロが 物陰に向かって手をたたき

それを合図に 魚の入った水槽が 次々に運び込まれて来た。

アピストグラマ・ホングスロイ ペヘレイ

そして ひげだらけの ナマズの変異種などなど。

 

ダ・シルバ氏は 水槽の苔掃除用に 

ふぐの一種である アベニーパッファーと

背中に サッカーボールのような模様を背負った

トリリネアトゥスを 男達から買い取った。

 

手間賃を与えて 全員帰らせたはずだったのだが

暗がりにもう一人 漁師が残っていた。

 

真っ黒に日焼けした顔と 埃と泥とにまみれた服が

見事に周囲と同化して 誰一人として 

男がそこにいるのに 気がついて いなかったのだが

開けた口から覗く 白い歯が 暗闇にピカリと光り

やっとペドロに声をかけてもらえた という次第である。

 

漁師は木の根っことでも間違えそうな

節だらけの手をもみしだき

消え入りそうな声でつぶやいた。

「旦那様、どうしても 見ていただきてぇものがありますだ。

中まで運ぼうと思っただが、

でかいし重いしで 持ち込めなかっただよ。

外で 見てくんなせえ。」

 

「この暑いのに それに

大きくて重い魚だったら、ほら あなたの後ろをごらんなさい

これ以上大きな魚ですか

男のすぐ後ろの水槽で 巨大なナマズ

髭をぴくぴく振るわせながら、底に沈んでいる。

 

「大きいは大きいだが、それだけじゃないんで」

 ダ・シルバ氏は 豊満な頬の肉に 半ば埋もれかけた目で 

興味なさそうに漁師を ちらりと見て マンゴーに手を伸ばした。

「あなた、マンゴーは好きですか?」

男のぶるぶると震える様子を、

「いらない」と解釈したダ・シルバ氏は

「こんなに美味しいのに、いらないとは 誠に残念」と

大振りに切ったマンゴーを 一口で口の中におさめ

恍惚の表情を見せながら ゆっくりと咀嚼して飲み込んだ。

「ペドロ、今日はもう十分です

この男に手間賃を渡して 帰ってもらいなさい」

 

男は 腕をつかもうとする ペドロの手を振り切って

ダ・シルバ氏の方に駆け寄って 叫ぶように言った

 

「あいつは 笑うんでさ」



その4につづく