JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その12

これまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その3 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その4 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その5 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その6 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その7 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その8 - JuniperBerry’s diary 

笑う魚 その9 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その10 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その11 - JuniperBerry’s diary

 

「笑う魚神ねえ、こんなしかめっ面なのに。

そういえば ペドロから聞いたんですけど

この魚が虹色に光ってたって言うじゃないですか

僕達も是非見てみたいですね」

「そうそう、その通り。

それを見たいがために 怠惰なあなたが起きるのを

辛抱強く待っていたんですからな」

 

二人の好奇に満ちた視線に さらされて

ダ・シルバ氏は しぶしぶながら 昨夜の出来事を二人に話した。

 

「なるほど こいつは なかなかシニカルな

センスをもっているようですね」

 アレハンドロが水槽を こつこつと叩きながら言った。

 

「シニカルなのではありません。無礼千万と言うのですよ」

 

「じゃあこれはどうかな」

 アレハンドロは上着を近くにあった椅子の背にかけ、

身軽に宙返りをやってみせた。

しかし 魚はかすかに 身じろぎしただけである。

 

その後も 召使いが列になって ラインダンスを踊ったり

ガローチョが (アレハンドロに無理に誘われる形ではあったが) 

タンゴをハードに踊ってみたり

ペドロが 密かに趣味にしていた手品を披露したり

小話を披露してみたりと 考えうる限りのことをやってみた。

 

しかし、腹を抱えて笑うのは人間ばかり

名無しの魚は ひれをのんびりと揺らしているだけである。

 

「おい 全く色が変らないじゃないか。

ペドロ、お前嘘をついたんじゃあるまいな」

 ガローチョに睨まれた執事は 後退りした。

 

「この魚の笑いのつぼは かなりうがった所にありそうだね。

だけど こいつが笑わなくとも 僕たちは 

十分に楽しませてもらったんだから いいじゃないですか」

 アレハンドロは、膝に乗せた女の子の 巻き毛を 

指にくるくると巻きつけながら言った。

彼女はダ・シルバ氏の従妹で ちょうど屋敷に滞在していたのだが

召使達が話しているのを聞いて 覗きに来たのだった。

 

椅子に座っていた エンリケ・ガローチョは 

後ろに倒れ込みそうな程 ふんぞりかえり

いつでも貧乏揺すりをしている脚は

いらいらと落ち着きなく 組み変えられている。

 

ガローチョは 腕を組み

ダ・シルバ氏を 横目でちらりと睨みつけた。

 

「こいつが笑うだなんて ダ・シルバが

だらしなくパティオに寝る為に 作り上げた口実に違いない。

ここまでやって 何もないんだから 

嘘つき呼ばわりされても 仕方がないぞ」

 

「何ですって 私が嘘をついて 何の得があると言うんです」

 

「そうだよ、エンリケ 言い過ぎだよ。

ピノはもちろんのこと、ペドロだって

わざわざ自分の間抜けさを 吹聴する必要なんて ないわけだもの。

それに博士によれば こいつは神様らしいじゃないですか。

神様に笑っていただくのは そう簡単じゃあないってことですよ」

 

「アレックス、君はそうやって いつだって ダ・シルバを庇うが 

わしは 大勢の前で 恥をかかされたんだぞ!」

 

その13に続く