JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その16

これまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その3 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その4 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その5 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その6 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その7 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その8 - JuniperBerry’s diary 

笑う魚 その9 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その10 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その11 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その12 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その13 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その14 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その15 - JuniperBerry’s diary

 

ダ・シルバ氏はため息をついた。

「博士が出かけている間に いろいろとあったのですよ。

その結果が このびしょぬれの服と 青あざという訳です。

それについては また後でお話しするとして

この魚について わかった事とは何なのですか」

 

 モレーラス博士は薄い胸を張った。

「彼は面白い事を教えてくれました。

部族が行っていたという 祭の話をしたのを 覚えてますか。

それがですな 祭というのは名ばかりで

実際は 処刑の儀式だったらしいのですよ」

 

 その場にいた人々は息をのみ

ペドロからは「ひっ」という声が漏れた。

 水槽の中では、名無し魚が獲物を逃した悔しさからか

未だ興奮冷めやらぬ体で 

ヒゲをぶるぶるとふるわせ 体をくねらせている。

 

「処刑には この魚に特有の習性を利用するそうでして。

どうするかというと 罪人達を 生簀の近くで戦わせるんですな。

するとその様子が この魚には求愛の儀式に見えるという訳です。

戦いに負けた方が 生簀に放り込まれ」

 人々の注目を浴びて、モレーラス博士の声が一段と大きくなった。

 

「求愛を受けて興奮した魚は

生簀に投げ入れられた人間を 食ってしまうのですよ。

これだけ大きな口をしてますからね 

それはもう パクッとひとのみでしょうな。

ほとんどが政敵を追い落とす為に 使われたそうですから

本当に笑ったのは魚ではなくて 

見ている人間の方だった って事なんでしょうな」

 

「なるほど 僕たちが目撃したのは それだったんだ」

 アレハンドロが いつもは陽気な顔を曇らせて言った。

 

「なんですと 何が起こったのです」

 目を輝かせる博士に、アレハンドロは直前に起こった事を 手短に説明した。

 

「なんと! 私も是非その場にいたかったですな。

虹色に光るというのは どんな風だったのですか。

もう一度再現してもらう訳には いきませんかな」

 

 物欲しそうな 博士の視線を 遮るように

ダ・シルバ氏は顔の肉を ぶるぶると震わせて 言った。

「あなたは見ていないから そんなことを言えるんです。

ガローチョは嫌みな人間だが、あの魚に咥えられたせいで

見てください もともと痩せっぽちではありましたけどね

ほら 刈り取られた枯草みたいになっているのですよ。

この状態の彼を目の前にして

よくもそんな事をおっしゃいますね」

 

「それはそうですが、学問というものは……」

 

「そんなに興味があるんだったら、どうぞどうぞ 差し上げます。

私の目のすぐ前で 人間が一人 飲み込まれるところだったんです。

それもよく知った人物が。

ああ、絶対に夢に出て来ますよ。

この、神様だか何だか知らない、この こいつ

この魚と一緒の屋根の下で過ごすだなんて もう一晩だって願い下げです」

 

 ダ・シルバ氏はそう言い捨てると 使用人達に手伝わせ 

これまでに見た事のないような 俊敏さを見せて

母屋に引き上げてしまった。

 

その17に続く