JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その10

これまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その3 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その4 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その5 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その6 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その7 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その8 - JuniperBerry’s diary 

笑う魚 その9 - JuniperBerry’s diary

 

「あー、お腹がすきました。皆さん、もう朝食は食べましたか。

このままでは 倒れてしまいそうです」

ベッドに寝転んだ ダ・シルバ氏が 太鼓腹を撫でながら言った。

「とっくの昔にいただきましたよ。

ここのコックが焼くパンは いつ食べても天下一品、食べ過ぎちゃいますね」

「まったくだ。マルメロの自家製マーマレードもうまかったですな。

さすが食いしん坊の主人をもつだけの事はある」

 

 ダ・シルバ氏の腹は 近くに立っていたメイドに

いつものチョコレートとドーナツを 持ってくるよう言いつけた。

「あなた方にも何か運ばせましょうか」

「もうお腹いっぱいですよ。だけど、コーヒーを一杯だけもらおうかな」

 名無しの魚にちょっかいを出しながら アレハンドロが言った。

 

「ところで、モレーラス博士はこの魚の正体について 何か言っていましたか?」

ダ・シルバ氏が、チョコレートを受け取りながら言った。

「これという事は 何も言っていなかったですね。

ですが わかったらすぐにとんでくるに決まってるから

心配しなくても大丈夫です。

博士、かなり入れ込んでいるみたいでしたよ 朝食も部屋まで運ばせていたから」

「ここに来る前、何か進展がなかったかと 部屋をのぞいてみたのだが

 電話で訳のわからない言葉を 興奮してしゃべっていましたぞ」

「ああ、あれはスワヒリ語です。

アフリカの研究者仲間に 電話してみると言ってたから」

 アレハンドロが長い足を組み替えながら、テーブルの上のフルーツに手を伸ばした。

 

その時 外につながるドアが ばたんと大きな音をたてて開き、

モレーラス博士が パジャマ姿のまま 走り込んで来た。

ぽかんと見つめる三人を 興奮冷めやらぬ顔で 見回して

ダ・シルバ氏の枕元に走りよった。

よほど急いだのだろう

博士のもともと少ない髪の毛が 汗でぺったりと頭にはりついて

巨大なキューピーのように見える。

 

 急なモレーラス博士の登場に驚いたダ・シルバ氏は

ドーナツを ホットチョコレートの中に ぽちょんと落としてしまった。

そのドーナツを引き上げて チョコレートをたらさないよう

口を開けてそろそろと持って行く。

がしかし、そこで 今度はモレーラス博士に腕をとられ

ドーナツはまたチョコレートの中に沈んで行った。

「ああ、ドーナツが……浸しすぎると美味しくないのに」

 

ダ・シルバ氏の落ち込んだ顔など 全く気に留めず

モレーラス博士は薄い胸を張って言った。

「ダ・シルバさん、こいつは世紀の大発見かもしれませんぞ!」

 

その11に続く