JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その17 (このお話のおわり)

これまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その3 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その4 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その5 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その6 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その7 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その8 - JuniperBerry’s diary 

笑う魚 その9 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その10 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その11 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その12 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その13 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その14 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その15 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その16 - JuniperBerry’s diary

 

 その後、笑う魚神は 他の多くの魚と一緒に

モレーラス博士に引き取られて行った。

 ダ・シルバ氏の 魚専用の離れは取り壊されて

そのあとには 氏の新しい趣味である

サボテン用の 巨大な温室が建てられた。

 

 ダ・シルバ氏は 今では規則正しい生活に戻って

肥満もある程度まで改善され 夫婦の寝室はもとに戻り

 エンリケ・ガローチョの当て擦り癖は あの事件からというもの 影を潜め

アレハンドロ・ナンブッコは ダ・シルバ氏の従妹との結婚を控え

二人とも 以前より以上に ダ・シルバ氏との親交を深めていた。

 

 ある日の早朝、ダ・シルバ氏が 新しく買い求めた

サボテンの世話をしているところに

アレハンドロとガローチョが 新聞を手にしてやってきた。

 

「おはよう、ピノ、今日の新聞をもう見たかい」

「いや、まだ見ていませんね。新聞は昼食の後に 

我が奥さまが 読んでくれる事になっているのですよ」

「そうか、だけど 今日は僕が読んでさしあげても構わないかな」

 

 アレハンドロは、幻の魚の発見でその名を馳せた

モレーラス博士の研究所から

当の魚が盗み出された という記事を読み上げた。

 記事によると、魚は盗まれるまでの2年間で

仲が悪くけんかばかりしていた 助手二人を

危うく飲み込みそうになった ということである。

以来 魚を世話する者が見つからず ほとほと手を焼いていた博士は

口にこそしなかったものの 厄介払いをして晴れ晴れとしていたらしい。

 警察当局は、当の魚の扱いに慣れた者の 犯行と見ており

かつて魚を儀式に使っていたという 古い部族の生き残りが

盗み出したと目されていると 結ばれていた。

 

 アレハンドロは新聞を折り畳んで サボテン棚の上に放り投げた。

「しかし あの魚ですけどね 笑う魚神っていうネーミングも 

そう見当はずれじゃないかもしれませんよ」

 魚の記事を聞いて引きつった ダ・シルバ氏の顔を見て

エンリケ・ガローチョが吹き出した。

 

「だってそうでしょう? 

あなたは健康的になって 奥さんともよりを戻し

エンリケだって 以前からは想像つかないくらい

人間が丸くなって 召使いの間では人気者なんですよ。

知っていましたか? 

今年のフェスタジュリーナに誘いを受けた数だって

僕よりエンリケの方が多かったんですからね。

モレーラス博士だって魚のおかげで有名になり

僕は 未来の伴侶となる人と出会うことができた。

こう考えたら 魚のおかげで 良い事づくめじゃないですか」

 

 エンリケに人気が集まるようになった理由は

アレハンドロに許嫁ができたから ではあったのだが

ダ・シルバ氏は そんなことをおくびにも出さず

相変わらず細い顔を ぽっと赤くした 

ガローチョの方を見て にっこりと笑った。

 

「まあ、私たちにとっては そう言えなくもないですかね」

 そう言いながら ダ・シルバ氏は 

アマゾンの どこか遠く深い奥地で

虹色に光っている魚を思った。

 それは、ダ・シルバ氏が 水槽のガラス越しに見た

底なしの洞窟のような顔ではなく

横長の口をにんまりとさせ、口ひげを陽気にひらひらさせる

神様の顔であった。

 

お わ り

 

 

 

15477w(原稿用紙約三十九枚)

2007.4.12