JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

笑う魚 その15

これまでのお話

『笑う魚』 その1 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その2 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その3 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その4 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その5 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その6 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その7 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その8 - JuniperBerry’s diary 

笑う魚 その9 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その10 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その11 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その12 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その13 - JuniperBerry’s diary

笑う魚 その14 - JuniperBerry’s diary

 

水槽に駆け寄ろうとした アレハンドロを押しのけて

ペドロが  水槽の中に ザンブリと飛び込んだ。

ガローチョの足首を掴み 水槽の壁に足を踏ん張って

思いっきり引っ張るが 魚も負けてはいない。

せっかくの獲物を逃してなるものかと 体を大きくくねらせる。

 

水槽の中は 嵐の海のようになり

ペドロのまん丸い体は 波に揉まれる 

ビーチボールのように 振り回された。

 

どうしてもガローチョの足を離そうとしないペドロに 

業をにやしたらしい魚は 

厄介者の方から飲み込んでしまえ と方針を変えたらしい。

ガローチョを泡と一緒に 勢い良く吐き出して

巨大な口を一層大きく開け ペドロに向かって身を踊らせた。 

 

魚の口は大きな波と音を立てて バチっと閉じられたが

生憎ペドロの姿は そこにはなかった。

水槽の上に乗り出したアレハンドロと 彼に加勢する使用人たちが

魚の口が届く前に ガローチョとペドロを

水槽から引っ張り上げていた。

 

ガローチョは 体全体が ぬらぬらと光ってはいたが

腕も脚も漏れなくついていたし 

眼鏡がはずれ カツラを失い 服が破れている以外は

五体満足であった。

 

ペドロは肩で息をしていたが、さすがはダ・シルバ氏の執事である。

すぐに ガローチョの蘇生処置にとりかかった。

エンリケ・ガローチョが 口から水を噴き出して咳き込むと

周囲で歓声が上がった。

 

息を吹き返して一番に 頭に手をやって

所在なげな顔をするガローチョの姿に アレハンドロが吹き出した。

 

獲物を奪われ怒り狂った魚は 水槽を横倒しにしかねぬ勢いで暴れまくったが、

その場の誰一人として、魚を見てはいなかった。

 

皆で二人を囲み 拍手喝采している最中

ゴフっという 大きな音がして

水槽の近くに立っていた使用人が のけぞった。

 

魚の口から ガローチョがかぶっていた

バケツが 宙に発射され

ゴワンという大きな音をさせて 他の魚の水槽にぶつかって床に転がり

パティオ中にガラガラという音が 不気味に響いた。

バケツは見事にひしゃげていた。

 

 さてそこに モレーラス博士が走り込んできた。

「わかりましたぞ、この魚の正体が! こいつは……」

 博士は 床に寝転がっているダ・シルバ氏を見つけて 困惑した顔で聞いた。

「どうしたというのです。ここにベッドがあるというのに」

 

「博士 私も好きで寝転がっている訳ではないのです。

これには名誉をかけた 重大な訳がありまして」

 

 モレーラス博士は周りを見回して 顔をしかめた。

「びしょぬれではありませんか。

まさか水槽に入って 一緒に泳いだなんて 言わないでくださいよ。

命を捨てたいのでなかったら、絶対にすべきではないですな。

というのもですね ダ・シルバさん あなた

私の知った事を聞いたら 腰を抜かすにちがいありません」

 

「腰はとっくの昔に抜かしています」

 ダ・シルバ氏は やっとのことでベッドの上に はい上がり 

文字通り ふんだりけったりの目に遭った 腹と腰をさすりながら言った。

 

その16に続く