JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

ヨーロッパ横断 シベリア鉄道で日本を目指す!その2  パリに着いたはいいけれど

<ウン十年前、まだ若かりし頃のお話です>

 

モントリオール空港を夜にでて

パリのシャルル・ド・ゴール空港に翌日早朝についた

平日だったこともあってか

乗客は旅行慣れしたビジネス客ばかり

飛行時間は6時間くらい ほとんど寝ていた

着いたのは早朝

 

空港に降り立ち 

眠い目をこすりながら見た空は 

綺麗な青空だった

 

その頃(今もそうかも)、モントリオールからの便の乗客は

ノーチェックだったから

波に乗って歩いているうちに いつのまにかフランスに入国

 

いくら両替するか悩んでいるうち

気づいてみれば

だだっぴろいフロアに 旅行者はぽつんと私一人だけ

 

荷物はカナダ滞在中ずっと使い続けた 私の相棒

よれよれになった

フェリージのナイロン製ショルダーバッグ ただ一つ

(お古のスーツケースはキャスターが壊れて捨ててきた)

 

このオレンジ色のバッグの中に貴重品と最小限の着替え

そして

地球の歩き方』と『Thomas Cook Europian Rail Timetable』

これがなければ動けない

歯ブラシと櫛と小さなタオル

化粧品はなし 女捨ててるって言われそう

を これ以上物が入らないくらいに詰め込んだ

 

両替を終え

明るくてだだっぴろい空港からパリ市内に向かう

 

電車のチケットを買おうと 財布の中を探ったけれど

両替したばかりで小銭がない

仕方がないので 大きめのお札を券売機に入れた

 

じゃらじゃらっと大きな音を立てて

お釣りが取り出し口に落ちてきた

 

コインを取ろうと腰を落としたその時 

黒くて大きな手が私の前を遮り

 

それは 私のお釣りを

取り出し口から ゆっくりと 握りとった

 

顔を上げると

肌の黒い、背の高い男性が 私を見下ろしている

 

誰?

もしかして 私、何か間違えました?

 

男が口の端をニッと上げた

 

違う、駅員さんじゃない

(まず、服が違う フランスの駅員さんの制服知らないけど)

私の怖じけ心が相手に伝わったのが わかった

 

みんな先に行ってしまって

周囲には誰もいない

私とこの男の二人だけ 

 

大声を上げても、来てくれそうな人はみあたらない 

ここは逃げるしかないか? 

でも 足の長さが違いすぎるから 絶対に逃げ切れない

目的はお金だよね

だけど お金を渡しちゃったら この先どこへも動けなくなる

(クレジットカードなんて持ってない)

身の安全が一番 だけど

どうしたらいいんだー

 

ごくごく短時間にこれだけ考えるって

人間 追い詰められると頭がフル回転するらしい

 

思うだけは思ったけど

何も決まらない

 

ただわかっているのは

 

まずい まずすぎる シチュエーションだってこと

 

男は私の方に顔をぐいっと近づけ

もう一度 顔を歪めて笑った

そして 私に背を向け 大股で改札の方へ歩いて行った

 

ふと我に帰った私

「何すんのよ! それ私のだからっ!」

と (小)声を男の背中に向けて投げつけた

 

男は振り向かなかった(振り向かれたら困るけど)

 

男が見えなくなって初めて

頭のてっぺんから足の先まで ビッシビシに力が入っているのに気がついた

こわばる指でチケットをとり(男はチケットまではとらなかった)

改札に向かって歩き出そうとするけれど

足の動きが、カクカクしてる

 

 

今から思えば、すごくラッキーだった

お釣りだけで満足してくれてありがとう 

 

 

その後は あの男の姿を見ることもなく

無事 電車に乗ってパリの北駅へ

 

駅から出ると 今度は街の大きさに圧倒された

石、石、石 どこもかしこも石だらけ

足元からてっぺんまで石造りの巨大な建物が

私の目の前にいくつもそびえたっていた

 

日本の田舎育ちで

カナダの一地方都市からきた小娘に

パリの街は巨大すぎて 怖かった 今すぐここから逃げ出したかった

(朝の券売機での出来事も 影響していたに違いないけれど)

 

とはいえ、せっかく来たのに、駅しか見ないのはもったいないと

ルーブル美術館だけ これ以上は無理なくらいの超早足で(一応全館を)まわり

(見た時の感覚を覚えているのは 

サモトラケのニケとまだガラスケースに入る前のモナリザくらい)

その日のお昼には ウィーンに向かう電車に乗っていた

 

私のヨーロッパ横断 第一国目 

フランスの

滞在時間は1日(どころか半日)にも満たなかった

 

(何年か後に再訪して大好きになった)

フランスの第一印象は最悪だった