JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

アイルランドで競馬観戦 障害の真横は迫力抜群 

今週のお題「かける」

・「駆ける」と「賭ける」で

 

アイルランドで競馬観戦に行ったことがある

 

ダブリンで通っていたステイブルのオーナー ホリーの

旦那さんは 北海油田の技師をしていて

競馬のジョッキーでもある

 

その彼が

ちょうど年に何ヶ月間かある休暇で

ダブリンに戻ってきていた

 

ハンチング帽がよく似合う

すらっと背の高いイケメンで

ふっくらとした優しいホリーと とってもお似合い

 

そのイケメン旦那さん(名前忘れました)が

せっかくアイルランドにいるのだからと 

「競馬にいっしょに行くかい?」 と声をかけてくれた

 

ステイブルボーイのトムによれば

旦那氏はジョッキーだから 馬を見ればどれが勝つかわかる

「勝つ馬を教えてもらって 儲けてきなよ」 と言う

 

さて当日

車に乗せてもらって競馬場へ

アスコットみたいなのを想像していたけれど

思ったよりも ずっとカジュアル

 

マイフェアレディーみたいな帽子を被った人は

当然 一人もいない

 

コースには 横に枝をボサボサさせた

大きな土手がいくつも設置されている

これは、馬が茂みをいくつも超えて その先のゴールを目ざすという

障害競馬? 障害レース?

 

競馬といえば 平地を ひた走るレースしか知らなかった私

障害飛越だけでなく

障害物競馬があるなんて⁉️と まずはそこにびっくり

(大学時代にJRAでアルバイトをしていたくせにね💦)

 

旦那氏によれば

アイルランドは障害飛越レース(ナショナルハント)の発祥の地なのだそう

スティープルチェイスと言って(スティープルは尖塔の意味)

教会の尖塔を目指して 競ったことから始まったとか

そして 秋から冬が競馬の季節らしい

 

自国発祥だからなのか

アイルランドでは障害飛越レースの人気はとっても高いそう

 

さて、私たち、まずパドックに行き 次々と引き出される出走馬を観察

引き締まった筋肉のかたまりのような

つやつやとひかる毛並みの馬体は

いつ見ても 何度見ても 惚れ惚れするほど美しい

 

「どの馬が勝つと思う?」 と旦那氏に聞かれ

私好みの顔と毛色の 栗毛の馬を指差した

「うーん」 と旦那氏

旦那氏の読みとは 全く違ったらしい

 

 

その後、旦那氏は

競馬場に立った物見櫓みたいな

塔の上に座っているおじさんに話しかけ

手のひら大の紙に 何かを書き

 

そして 私に 「さて 見に行こうか」 と言う

 

観客席の方に行こうとしたら

そっちじゃないよ と 

旦那氏はコースの方に向かって 躊躇なく歩いていく

 

コースを横切り 柵の扉を開け

楕円の輪っか状になっている コースの向こう側にたどり着き

私の肩くらいの高さのある 障害の

すぐ前で立ち止まった

 

「ここが一番よく見える 特等席だ」という

それはここ以上によく見えるところはないでしょうけれど….

競馬場の運営側しか入れないような場所に

私なんかが入っていいのでしょうか???

 

旦那氏に 障害レースのなんやかやを説明してもらっていると

いかにも慣れた様子のおじさんが 2、3人やってきて合流

ジョッキー仲間なのか、競馬仲間なのか

旦那氏と一緒に 今日のレースや馬について

なにやら専門用語を使って話し始めた

 

その間も 障害を前後左右から 顎に手を当ててチェックしたり 

胸元のポケットからフラスクを取り出して 口元に持っていく仕草

長い脚を持て余し気味なところも 全部ひっくるめて

何から何まで絵になる旦那氏なのである

 

当の私は こんなところに来るのは初めてで

(競馬観戦自体が初めてなので)

イケメン旦那氏だけでなく

観覧席のお客さんを きょろきょろと見回したり 

障害に触ってみたり

小学生か おのぼりさん状態

 

しばらくそうしているうちに アナウンスがあり

レースが始まった

 

出走の合図があり

足裏に響く振動がどんどん大きくなって

小さい塊だった馬の群れの

一頭一頭の顔が判別できるぐらいまで近づいてきて

そして大写しになる

と同時に

ダダダダダ、ともドドドドドとも、ブワーッともつかない

地響きのような音が塊になって押し寄せる

 

私に向かって突進されているような すさまじい迫力に圧倒されて

思わず後退る

 

先頭の馬が障害を越えた

馬の体は長く伸び、その腹は障害を擦ってしまいそうだ

それに続け、遅れてならじ とばかり

激流となった馬たちが 次から次へと障害に向かって身を躍らせる

騎手たちの振るう鞭、着地点を見極める表情、噛み締めた口元

その全てが 私の目の前1mで起こっていた

 

と、そこで障害を越える 一頭の馬の体が少し傾いたように見えた

そして、その馬の足が地面についた その途端

大きな体がぐらりと揺れて地面に崩れた

しかし すぐに 体を捻って立ち上がり

先を行く馬を追って 軽い背中のまま駆け出した

騎手はと見れば 体を小さくして地面に倒れている

 

けれど、馬の流れは止まらない

障害を越え、着地し、ゴールに向かって駆けていく

馬の蹄が 騎手のすぐそばの土をはね上げる

今にも踏みつけてしまいそうだ

 

全ては あっという間の出来事だった

 

私はまともに見ていられず、

心臓が今にも口から飛び出しそうになりながら

指の隙間から様子を見ていた

 

最悪の事態は起こらなかった

ありがたいことに

馬たちは 落馬した騎手を器用に避けて

走り去った

 

落馬した騎手は女性だと 旦那氏から聞いた

足を捻挫したのか、どこかを強く打ったのか

担架で運ばれていった

 

しばらく、その時のシーンが目の裏から消えず

脈拍もなかなか元の速さに もどろうとしなかった

 

その後も、まだ何レースか見た気がする

1回は同じように障害のすぐ前で

あとは観客先で見た

 

けれど一番初めがあまりにもインパクトが強すぎて

後のレースについては あまり良く覚えていない

旦那氏が買ってきてくれたオレンジジュースを

ちびちびと飲んでいたのだけ 覚えている

 

***

 

翌日 ステイブルに行くと 

トムに「儲かっただろ😉」と言われた

 

あ……そういえば、何も賭けていなかった

「賭け」の2文字は 私の頭からすっぽりと抜けていた

 

トムには

「そんなことなら 僕がJuniperの代わりに行ったのに」と 

呆れ顔をされた

 

トムによれば 旦那氏は ばっちり勝ったらしい

そして 落馬した騎手の怪我は 選手生命に関わるような

ひどいものではなかったということだ

よかったよかった

 

ちなみに旦那氏は 落馬した騎手に かねてから注目していたそうで

「成長が楽しみな 期待の選手だ」

と言っていたそうなのだが

 

今回のレースで 彼女と彼女の馬には賭けていなかったらしい