グリム童話の 『いばら姫』のお話 ご存知ですか
『眠れる森の美女』の方が 人口に膾炙しているかも
この物語のお城のモデルになった建物が
ラインハルツヴァルト(Reinhardswald)にあり
古城ホテルになっています
その名も いばら姫の城ザバブルク
(Dornroeschenschloss Sababurg)
お城の周囲には森と平原が広がって
童話の世界に迷い込んだようです
そんな メルヘンな世界で あんな目に遭うとは
誰が想像したでしょう
あれは
まだ肌寒い季節のこと
こちらの 古城ホテルに宿をとりました
オフシーズンだったからか
なんと 塔の部屋に泊まることができました
(部屋が円柱…なので、寝やすいかといったら微妙です
もちろんバスルームはついていません)
ただ、民藝調のトールペイントされた家具で
コーディネートされた可愛らしいお部屋
お姫様っぽくはないけど、お付きの下女の部屋っぽくは ある
夕食は ダイニングルームで
その地方の名産をいただいて
その夜は壁面の丸い部屋で
フォークロア調の寝具に包まって
眠りました
大丈夫です まだ何も起こっておりません
そしてコケコッコーの声が響き渡る前の
夜がぼんやりと白み始める頃
もそもそと起き出した夫
サラリーマン夫の朝は 早い
塔の窓を開けると、その先には
靄のかかった森と平原
これぞドイツという ロマンチックな景色
夫が
せっかくだから早朝散歩に行く と言い出しまして
ついて行かない手はありません
まだ肌寒かったので 革ジャンを羽織り
そっと外に出て
古城ホテルの裏へ通じる道を辿ります
朝露が光る 草っ原の中の一本道
空気は澄んでヒンヤリとして
目に入る緑も柔らかで気持ちがいい
気持ちの良さに 景気良く
てくてく歩いているうちに
日が登って辺りが明るくなってきた
と共に 目印だったはずの
ザバブルク城の姿が 消えてしまった
こんな平地だし、
お城を見失うわけがない
なんて 浅はかだった
行く時は ひょいひょいと
気ままに道を選ぶけど
いざ戻るとなると、
目印のない
どこもかしこも同じような草っぱらでは
自分たちが今どこにいるかもわからない
(まだGPSのない時代です)
来た道をそのまま戻るしかないと
回れ右して 小走りで歩く
引き返すと決めるまでの2倍は歩き(迷い)
朝食時間が どんどん近づいてくる
そんなに遠くまで歩いたつもりはないのに…
これは まさか お城の呪い?
なんて だんだん不安になってきた時
目の前に やっと ザバブルク城の塔が見えてきた
ああ助かった
朝食に間に合う
周囲を見回すと、心なしか見覚えのある木や草
急ごう急ごう と
小走りに分かれ道を曲がろうとしたその時
ききーっと足が止まった
そこには、来る時にはいなかった
もしくは 気づかなかった
ある生き物が
道一面を覆っていた
それは 数多の巨大ナメクジ
それも カラーはオレンジ
焦茶に近いオレンジからビビッドなオレンジまで
太さ1cmを超え 長さも10cm以上の
ナメクジが
小道を横断? していた
それは 道がうっすら オレンジ色に見えるほど
見た途端に背筋 ぞわーっ
足がぞくぞくっとした
もしや これぞ現代版お城の呪い?
名付けて「なめくじいっぱい」
だけど プルプルしている暇はない
朝食のスタートまで あと5min
どうする、他の道を探すか
ここに辿り着くまで あれだけの時間がかかってるんだから
また別の道を探すとなったら
朝食どころか チェックアウト時間に間に合わないかも
だけど
なめくじロードを走れば間に合う
さあどうする!
どうしよう? と後ろの夫の方を 振り向けば
そちらにも 歩いている時には気づいていなかった
ナメクジがぞろぞろ 進出してきていた
お城を探して 上ばかり見て気づいていなかったのか
それとも
気温や時間といった環境的な問題か
(思わず、踏んでいないか ちらっとチェックしたけれど
踏み潰された様子がなくて、ほっと胸を撫で下ろした)
さて どうする? と夫を見れば
わかりやすく腰が引けている
「僕は通りたくない ここでいなくなるまで待つ」
こういうとき
女は強い
いや、食いしん坊は強い
緊張しいの人を見ると、自分の緊張がスッと抜ける
そんな感じで
「ナメクジロードを進む」と決めた
「私は朝食を食べるからっ」
そう言い捨てて
オレンジの隙間を縫って 高速けんけんぱっ
けんけんぱっ けんけんぱっ!!!!ぱっぱっぱっぱぱぱぱぱっ
私が向こうに着いたのを見て
夫も 恐る恐る 道に足を踏み入れた
だけど
ひゃあひゃあ言いながらだから
なんたーって 遅い
「急いでー、朝食ー」と叫ぶ私に
「僕は食べなくていいっ」と テンパった夫の声
相手はナメクジ 襲ってくるわけでなし
夫がこれ以上 危機的状況になるとは考えにくい
「先に行って、少し遅れるって伝えておくね」
無情にも 夫を置いて城に戻った 私
置いていかれるとなると
俄然焦るらしく、夫も私から5分と遅れず
朝食の席についたが
さすがに食欲は失せたらしい
一方で 日頃、朝から丼飯をいただく この私
しっかりたっぷり
眠りの森のお姫様のお城の
目覚めの朝食
いただきました。
美味しかったです、ごちそうさま