中学一年の夏休みの事です。(今の季節と真逆で、すみません)
ずっと使っていなかった部屋を
夏休みの間、使うことになりました。
2階の北西向きの六畳の部屋です。
この部屋は一階と違って天井はそれほど高くありません。
風通しをして、掃き掃除をして、拭き掃除をして、
布団を運び込みました。
かけ布団は夏なので、タオルケットくらい。
夜になり、
さあ寝ようと布団に寝転んだ。
外からは、蝉が時々驚いてジジッと鳴く声や、
ガマガエルの声がする。
暑いから、なかなか寝付けない。
寝返りをうった私の腕に
ぽとっ
何かが落ちてきて、反射的にふりはらった。
ごみかな?
家、古いし
電気をつけて何か確認するのも億劫。
さすがに眠くて起き上がりたくない。
そのままじーっとしていたら、
ぽとっぽとっぽとっ
音が続く。
ん?
私はタオルケットを跳ねのけて
飛び起きた
なにこれ⁉️
そこには、信じられないような光景が
(すみません、虫の嫌いな人はここから先は読まないでください)
胴体直径1cmから2cmほどの
茶色い蜘蛛が
天井から
床にむけて落下してきているではないですか!
(その蜘蛛は足が長かったので、足まで入れたら、すごく大きいです)
その数総勢10匹以上
それが、私が見ているその目の前で
ぽたっぽたっと天井から床に着地するのです。
天井を見れば、
今にも着地しようと待ち構えている
クモが20匹以上
もう、これぞクモ嫌いの地獄
ぎゃあーーーーーっ
ちょっときて、早く!早く!
お母さんっ
その場から一歩も動く事ができません。
完全フリーズ
声もうわずって
自分の声ではないみたい。
私は蜘蛛が大嫌いです
(ちいちゃなハエトリグモを除く)
田舎なので、時々大きなのがコロンと転がっているのをみますが、
その場所はそれがいなくなった後でも、ぜったいにふみません。
なのに、こんな修羅修羅
私がなにをやったっていうの!
なにも悪い事していないのにっ!
その場から一歩も動く事ができません。
完全フリーズ
その間も
「ひーひーきゃーきゃー」
声だけは健在です。
やっと
母が階段下から
「なに、どうしたの、こんな夜遅くに」と
面倒臭そうな声をかけてきました。
「きて!きて! 早く! 早く! くも!くも!」
もうそれしか言えません。
のんびりと階段を登る母の足音の憎たらしかった事
顔を出すなり、
「あれまあ、これはすごい」
我が母はスパルタです。
ご自身が田舎のお育ちなのと
豆より小さい小豆と言われ続けた
生来の反骨精神から(おっと、ここでは関係なし)
自分のことは自分でおやり
と、掃除機を部屋の前に置いて
下に降りてしまいました。
「なに、これで吸えってこと?」
「生きてるのに!?」
けれど、背に腹は変えられぬ
私は如意棒(例えが戦前)さながらに
掃除機を振り回し、
わっしゃわっしゃと吸い込んだ
(ごめん、ごめんね、ごめんなさい)
けど、ホースの中を
だいだい大っ嫌いな「あれ」が
ひゅんひゅん通っていると想像するだけで
鳥肌が立って、掃除機を取り落としそうになる。
だけど、そんなことしたら、
ばーって出てきそう
半泣きになりながら
畳の上から
天井からくまなく掃除機を当てていきます。
それでも、クモの着地箇所は
絶対に踏まないように、
つま先足立しながら
うひゃー、ひえー、きゃあ、いやだって、うわあ
とありとあらゆる喚き声を駆使しつつ
どうにか作業完了。
恐る恐る確認しながら階段を降り
(もしかしたら、気まぐれなのがそこにいるかもしれないので)
クモでいっぱいの掃除機を納戸に入れました。
(掃除機のゴミは、母が後で捨ててくれました。
母が私にゴミ捨てをさせるほどまで阿漕でなくて助かりました。
ちなみに、
吸い込まれた方達は、お元気だったそうです。
母は野山に放ってくれたそうですが、戻ってきませんように)
その日は眠れず、一階の別の部屋でまんじりともせず過ごしました。
後から、天井にはたきをかけなかった私のせいだと言われて、
笑われました(ひどい)。
西に窓のある暖かい部屋なので、
産卵でもしにきていたのでは? とのこと
もっと想像したくありません。
その日以降、2階の例の部屋で寝たことはありません。
掃除機もそれからまもなく捨ててしまいました。
そして、私はその日のおぞましい出来事を
夏休みの宿題だった英作文に書き、
◎をもらったのでした。