JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

まさかワルプルギス前夜だった? 

そういえば

ドイツ中部を旅行したことがなかったよね と

私たち夫婦が 選んだ旅行先は

 

クヴェトリンブルク

 

ずっと扁平な地平線に囲まれた

デュッセルドルフと違って

ハルツ地方にある

クヴェトリンブルクまでの道のりは

起伏の多い 地形が続き

日本人には

懐かしく嬉しい景色

 

ハルツ地方の名称は

山地の名前からとられていて

最高峰のブロッケン山には

魔女たちが集まるという伝説がある

それがワルプルギスの夜

 

その ハルツ山地を越えたところに

位置しているのが

クヴェトリンブルク

旧東ドイツだったこともあり

資本主義の影響が少なく

かつての姿を そのまま残してる

 

クヴェトリンブルクの街に入って

車を降りた

ちょっと気を抜いたら

つまづいて転びそうな

ゴトゴトの石畳

 

道の両脇には 旧西ドイツでは

あまり見ることのない

古めかしくて

錆びたり 色の褪せた

車がずらっと並び

 

昔ながらの姿を残す

木組の家々の中には

窓枠なのか鎧戸なのかが

蝶番でぶらぶらと

揺れていたり

蔦が絡まって

修復もされず 見捨てられ

今にも くずおれそうな家が

点在してる

 

人の姿は ほとんどない

野良犬が

道を横切りながら

私たちの方を

ちらっと見た

 

来る前に抱いていた

華々しい「世界遺産」の

イメージは崩れ去った

 

東ドイツだもの

 

今夜の宿は 

モノトーンの色合いの美しい街

同じくハルツ地方にある

ゴスラー(旧西ドイツ)にとっている

この街に泊まることにしなくて

よかった と思った

 

それでも

せっかく来たのだからと

人気のない街の中を

建物を見ながら

ぶらぶらと歩く

 

観光地らしい

おしゃれなカフェも

お土産物屋さんも ない

 

夕暮れ時が近づいて

あたりが うっすらと

薄灰色の影を帯び始めた頃

 

高台からの景色を

もう一度 眺めてから

この寂しい街を出て

宿に向かおうと

城の庭園に足を向けた

 

まるで谷底を歩いているような

薄暗い石畳の道を歩いていると

何もないと思っていた城壁に

口がぽっかりと開いて

ドアから 白い服を着た 女の子たちが

次々と現れた

 

薄暗がりの中

薄衣を垂らして 歩く姿は

周囲の街の様子とも相まって

時空が歪んで

うっかり中世に入り込み

妖精か何かの

行列にでくわしたかのようだった

 

あれだけ 人気がなく

しんと静まっていた街に

こんなに人がいたのも驚きだった

 

彼女らは

すうっと 道を横切って

小道のほうに消えていった

 

彼女らをぽかんと見送って

二人で 顔を見合わせた

「あれは何?」

また もとの暗さに戻った道を

王宮庭園を目指し

首を傾げながら歩いた

 

整備されていない

階段を上ると

パーゴラの下に

先ほど来た時には なかった

明々と燃える炎

その周りには 3、4人の

男たち

 

私たちに気づいた一人が

こちらに来い と

手招きした

 

大きな焚き火の上には

鉄の棒が渡されて

まるまるの豚が ぶらさがっている

 

「時々回さないと

一箇所だけ丸焦げになって

あとは生焼け」

男がニヤリと笑って言った

 

「食ってくか もう少し待っていたら焼き上がる」 

 

革のような肌をした 男の顔に

炎の赤い色が映って

ドワーフのように見えた

 

なんか変だ

 

この街は

昼間と 夕暮れ時の

印象が違いすぎる

 

空中庭園から見晴らす

夕暮れに沈む ハルツ地方は

美しかったけれど

 

背後には 白い女たちと

顔を赤く火照らせた男たち

そして 火の上で炙られている 大きな豚

 

陽が沈み切ってしまったら

何かが起こりそう

なんていったって

ここは 魔女たちが集う

ハルツ地方なのだもの

 

黒い影になった 

高い木々の枝は

まるで襲いかかってきそうだし

ぶら下がった鎧戸の後ろからは

誰かが手招きしていそう

 

夫の袖を引っ張って

まだ足元が 見えるうちにと

足早に 庭園を後にした

 

階段を降りたところで

大きな鋲の打たれた

城の扉が 

また ぎぎぃと 音を立てて開き

ここに扉があることは

知っていたはずなのに

私は思わず ひぃっ と声を上げた

 

顔を出したのは

小さな女の子を連れた

やっぱり 白い服を着た 女性

 

女の子が スカートの裾に

しがみついている

驚いたのは お互い様だったらしい

 

女の子の 生身の人間らしさに

恐れが遠のいて

 

「今日は 何かあるんですか?」と

聞いてみた

 

「明日のお祭りに歌う曲を

練習しているの」

 

なんだ

てっきり 魔女とか妖術使いの

集会かと思った

(ファンタジー読みすぎ)

そうか お祭りの準備だったんだ

あの男たちも 豚も 炎も

 

肩の力が ストンと抜けた

 

「この街のお祭りは素敵よ ぜひいらっしゃい」

 

アジア系の顔が 見慣れないのか

女の子が まんまるい目で

私たちを見ている

 

「これから ゴスラーに移動するんです」

「そうなの残念ね また来てね」

 

せっかくの機会だし どうにかして

明日また こちらに足をのばせないかと

予定を 確認した (けど 無理だった)

 

さっきまで 

逃げ出しそうなくらい

怖気づいていたのが

 

嘘みたい

 

行きは ぞわぞわ

帰りは よいよい の

クヴェトリンブルク旅行 だった

 

***

 

中世の雰囲気を

色濃く残した クヴェトリンブルク

実は

「ドイツ人が一番訪れたいドイツの街」に

選ばれている

 

今は 綺麗に整備 修理され

道で転けそうになることもない

観光客の姿で賑わう

可愛らしい 中世のおとぎの街に

様変わり したらしい