イスタンブールに 1週間
滞在したことがある
見慣れぬ 建造物のシルエット
敷物で覆い尽くされた床
ベールで髪を隠す人たち
光を 柔らかく反射する タイル
そこは 正真正銘の異国
街で出会う トルコの人たちは
とっても 人懐こくて
笑顔に無理がなく
陽気なレストランの おじさんたちは
食事の間中 ずっと
賑やかに話しかけてきて
帰りはお店の前で
並んで 写真を撮った
色の洪水のような バザールで働く
おじさんやおばさんは
威勢がよくて 声が大きかった
朝と夜には コーランが聞こえ
レストランは 歌と踊りとお喋りで
溢れてる
その一方で
夜のイスタンブールは
シンと静まって
モスクの巨大な影が道におち
動くものは 私たちの影と
空に浮かぶ大きな お月様だけ
の まるで童話の世界
日本とも ヨーロッパとも違う
馴染みのない風景に
異邦人 という単語が
ふっと心に 入り込んでくる
そんな国
そのイスタンブールで
朝早く散歩にでかけた
何せ 一週間も滞在しているから
だんだんと 旅行ムードに日常が入り込んでくる
朝日の中 港の方に歩いて行けば
もう かなりの 人通り
誰もが忙しなく歩いていた
その上を カモメが旋回してる
日中のほうが
ずっとのんびりとして見える
目立ったのは パンを運ぶ人
荷車に袋にも入れず
そのまま乗っけて
運んでいたり
頭に山ほど乗っけていたり
たくさん載せ過ぎて
ぽろっと落っこちたり
トルコといえば
デーツやピスタチオ
色とりどりの新鮮な果物野菜
美味しいものはたくさんあるけれど
なぜか 印象に残っているのが
パン
特筆するような 特別な味がした
わけではないけれど
パン
朝の忙しない パンの往来もそうだけど
もう一つの イスタンブールの
パンの思い出
昼間のんびりと
どこに向かうでもなく
散歩をしていた その途中
木陰に座って 一休みしていた時のこと
男の子たちが
前を通りすぎて 立ち止まった
私たちの方を見て
ヒソヒソと話している
日本人が珍しいのかな と思って
気付かぬふりをしていたら
急に 彼らのうちの一人が
駆け寄ってきて
ぐいっと 腕を突き出した
その先には ビニール袋に入った
ベーグルを巨大にしたような
パン
驚いて 少年の顔を見返すと
はにかんだ笑顔が 浮かんでる
ジェスチャーで「食べて」と
伝え 私の手に押し付けると
一目散に仲間の方に走って
戻って行った
待っていた男の子たちに
肩をつつかれたり しながら
向こうのほうへ 歩いて行く
何も挟んでなくて
何も練り込まれていない
トルコのパンは ごくごく素朴な味だった
トルコでは いろんなレストランに行ったし
お菓子も たくさん食べた
だけど 覚えているのは
給餌してくれた 人たちの
笑顔とか 分厚い手のひらとか
楽しげな声 ばっかりで
料理の味については
ほとんど何も覚えていない
ただ 一つ
覚えているのは 少しパサついた
パンの味だけ