
私が好きな香りは
ベタなところで
薔薇
他にも
金木犀に似ているようで
私にとっては
思いっきり 別物の
ミモザとか
さまざまある
好きな香りの中で
ちょっと特別なのが
桐の花の 香り
桜の季節のすぎる
五月あたりから
花を咲かせはじめる
昔の家の庭には
一本は植っていたという
桐の木
女の子が生まれると
桐の苗を植えるのが慣わしと
聞いたことがあって
成長の早い桐の木は
女の子が年頃になる頃には
大木に成長し
嫁入り道具に
生まれ変わる
実家の庭にも
巨大な桐の木が植っていた
(実家はすごい田舎だったので、土地だけは広かった)
父には 姉妹が 何人もいたけれど
誰のためにも
切り倒されずに
成長し続けてきた
桐の木は
二人で手を繋いでも
両手が回らない程の
巨木に育った
あまりに
巨大すぎて つい
そこにいることを
忘れてしまう
けれど
ある日ふと
桐の木の存在に気づく時がある
薄紫色を
香りにしたような
艶っぽく
特徴のある香りが
ふわりと
まるで
羽毛のように降ってきて
ふと 見上げれば
視界の
ずっと向こうの
高い枝に
滲んだような紫色
桐の花が
咲いている
高過ぎて
手は届かないし
花の姿も朧げ
けれど
香りは雄弁に
存在を主張する
そのひと時だけの
紫色の香りが
私は大好き
京都でも
いつだったか
散歩をしていて
紫色した香が
降ってきた
迷わず 見上げてみれば
ずっと高く
紫色のひとむら
ずっと
ここにいたんだね
薄紫の光が
ちらちらと
降ってくるような
懐かしい香りに
ひととき 立ち止まる
ありったけ
かき集めるように
大きく大きく深呼吸