お題「においをかいでふと思い出した記憶(めっちゃ短いエピソードでもぜひ聞かせてほしいです)」
お題からずれていたらごめんなさい
においつながり で
美術予備校に通っていた時
クラスメイトの多くが浪人一年生
18歳や19歳ばかりだった その中に
私と同年代の Kちゃんがいた
女性ながら なかなか 行動力のある人で
アフリカに一人旅した時に ある家族と仲良くなって
食事に招待された そうな
その時に出た
コウモリの姿煮だったか? を食べて
強烈な腹痛に見舞われたのだ とか
ところで
予備校のお昼ご飯タイムは
テレピン油のにおいのプンプンする 教室で
仲の良い同士 床に座って食べていた
よくやっていたのが おかず交換
その日は Tちゃんが
アスパラの牛肉巻きを
どうぞー とみんなに差し出した
皆んなが 「美味しそうー」と手を伸ばす中
Kちゃんだけが
「私パス」と言って 顔を背けた
コウモリの姿煮に比べたら
アスパラ巻きは 極上の部類に入ると思うけど
好みは人それぞれだからねー
と 私の中で
気分は 早々とデザートにとんでいた
ただ 若者達は納得いかなかったらしい そして
私のいた油絵クラスには 表現が直截な子が多かった
皆んなで
「嫌いなの?」
「体質的なもの?」と
Kちゃんを質問攻め
「食べ終わってからなら」
と言って Kちゃんが話してくれたのは
***
美術予備校に通う前
Kちゃんは 街の生活に息がつまりそうになり
北海道に渡って 畜産農家でアルバイトをしていたそうだ
ほし草を作ったり 牛に餌をやったり 牛舎を掃除したり
その農家で扱っていたのは 乳牛ではなく肉牛だったから
時期が来ると ドナドナの歌にあるように
牛は運ばれていく
そして
運ばれていく何日か前になると なぜか
牛から ある独特な においがしてくるのだそう
それが該当年齢になった というにおいなのか
それとも
運ばれていくことを察しての においなのか
Kちゃんによれば 同じ年齢なら
全頭から そのにおいがするわけではなく
運ばれると決まった牛のみ らしい
言葉を語らぬ 牛が
まるで 自らの運命を
予感しているかのように 放つ においを
Kちゃんは何度も何度も 嗅いだ
それ以来 Kちゃんは 牛肉が
どうしても 食べられなくなった
牛肉を見ると
その時のにおいが 蘇るのだそう
Kちゃんの話を聞いて 誰もが黙りこくった
お腹の中に 鉛玉を飲み込んだような気がした
***
牛が発していたという そのにおい
それを名付けるなら 「哀しみ」なのか ?
「哀しみ」は かおりの粒となって
ある日突然 鼻先を掠め
人々が 目を背けている 現実を
突きつけてくるのかも しれない な