JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

あの日のこと その2

 

2011年の3月11日

東北大震災が起こり 

目黒の和菓子教室で習っていた生徒全員が

教室に足止めになった

 

誰もが 家族の安否確認に携帯を握りしめ

部屋には重苦しさが垂れ込めていた

 

 

「チョコレートを食べましょう こういう時は甘いものが一番」

 

その言葉は

長らく締め切っていた部屋の 窓を開いて流れ込んだ 

新鮮な外気のようだった

 

先生が 特別の時のためにとっておいたという

お気に入りのチョコレートは

ほろ苦くて 甘くて お酒の香りがした

 

「せっかく みんなで一緒にいるのだから

何か話をしましょう 全員で順番がいいわね」

 

全員が と 先生は言っていたのだけれど 

 

誰かが 

「先生は以前(超有名歌手)Yさんのヒット曲の担当を

していらしたって聞いたんですけど その時の事を聞きたいです」 

と 言った事から

 

皆んなで

「私も聞きたい」

「私も」

「私も〜!」 となり

 

先生はちょっと考えて

 

「この教室では 誰にも話していないんだけど、まあいいわ」

 

斯くして その場は 

足止めされた 不安でたまらない人たちの集まりから

先生の波瀾万丈な 思い出話を聞く会になった

 

おっとりとして穏やかな先生が

よくもまあそんな体験を! と 信じられないような話が 

次から次へと披露され

私たちは 今自分たちが置かれた状況も忘れて

顔を見合わせながら 驚いたり笑ったり

 

話の内容はもちろんだったけれど

先生の話のうまさに

皆んな 子供のように身を乗り出して聞いていた

 

時間はあっという間に過ぎていった

 

日が暮れて、やはり電車は動かない

どうにか歩いて帰れる人(確か、私ともう一人の計二人)以外は

教室に泊まる事になった

 

目黒からどうやって帰ったらいいのか

皆目見当がつかなかったけれど

先生が地図をプリントアウトしてくれた

 

「気をつけてね、ご家族の無事を祈っているよ 早く帰れますように」と

皆んなに手をふり声をかけ 教室から帰途に着いた

 

目黒から環状線に出て 

道路を埋め尽くす 人の流れに乗って

時々近くの人と喋りながら

ひたすらに歩き続ける

 

人と車で埋め尽くされた道 そこを

誰もが同じ方向に歩く姿は

まるで SF映画を見ているようだった

 

何時間かかったか覚えていないけれど どうにか家に辿り着いた

 

2階だったのと 揺れの方向のおかげか

被害はほとんどなかった 

 

 

その後 和菓子教室で

あの後、先生が夕食にカレーを作ってくれて それがとても美味しかったこと 

翌日には 全員が帰途につけたことを聞いた

 

そして 

仙台出張していた 生徒さんのご主人が無事だったと

連絡があったということも

ご主人と連絡がついた時には 拍手が湧き上がったとか

 

 

あの日、あの時 

様々な人が 様々な場所にいて 様々な体験をした

 

あの日 私が体験して

今でも心に残っているもの

 

それは 先生の 

おっとり ほんわかした見た目からは 

想像もできなかった

危機管理能力と 落ち着きと 皆んなを安心させる心遣い 

 

あの時 本当の「大人」の姿を見た気がする

あれから12年、私は少しでも先生に近づけただろうか