JuniperBerry’s diary

日々感じたことや ふと思い出した事を 書いてます

バスが来ない

 

ホリーの乗馬クラブは

ダブリン郊外の丘の上にあって

毎回バスで通っていた

 

バス停から厩舎までは

ちょっとした坂道

そこを越えると その先には

牧歌的な風景が広がって

綺麗な声で囀るお茶目なロビンや 

道端の草花に目をやりながら

のんびりと歩くのが また楽しい

 

帰りは

バスが1時間に1本か2本しか来ないので

時間に合わせて 厩舎を出る

来る時同様 のんびり徒歩で向かうか

丁度車を出す人がいれば バス停まで送ってもらう

 

その日は うっかり話し込んで 厩舎を出たのは夕方近く

レッスンは一人だったので

一人でのんびり 夕焼けを見ながらバス停へ

 

アイルランドのバスの時刻表は 30%くらいの確率で 外れる

はずれるという言い方は おかしいかな

 

一本すっとばしたり、

時間よりも早くきたりと 気まぐれなので

いつも15分くらい前には 余裕をもって 

バス停に着くようにしないと

待ちぼうけする羽目になる

 

そしてその日も やっぱりね 

バスが来ない

遅れているのか それとも一本 間引いちゃったか

こんな時のために いつも本をバッグに入れている

 

ところが

本を一冊読み終わっても

まだ来ない

もう一回読み返そうにも

陽が落ちて 本を読むには暗すぎる

田舎のそれまた田舎だから 街灯の間隔も広くて 遠い

 

さすがにバスが2本続けて来ない と言うのは

あり得ない と思っていたけど、これが現実

 

携帯は この時代 持ってない

迎えにきてもらおうにも 公衆電話もない

(本当に本当に すごい田舎なので 

バス停は見渡す限りの放牧地の中に ぽつんと立っている)

 

このバス停は路線の終点 

バス停から歩いて50mくらい行った所に 折り返しがあって

街から 長い長い一本道を 登ってきたバスは 

折り返し地点で 行き先を変えて

そのまま同じルートを戻る

 

だから 登ってくるバスが来なければ

降りていくバスが来るはずがない

 

そして

もう3時間も この場所に立ちっぱなし!

 

暗いし怖いし寒いし 

歩いている人なんて 誰もいない

そういえば、車も一台も通っていない

 

どっかで事故でもあったのか

それとも工事か何かで 急に通行止めにしたりとか?

もしかしたら 運行情報が変わったとか?

いろいろ考えてみるけれど 

何しろ

このまま バス停で夜を明かすわけにも行かない

 

ホリーのところまで 真っ暗な道を(怖いけど)戻って 

車を出してもらえないか 頼むしかないか

 

仕方がないよなあ とため息をつき 坂道を上がろうとした

 

その時 

下の方に ちらちらと光が見えた

ん? 目を凝らす

 

それは 長くて細い光の列

 

やっと来た

バスもあの列の中にいるはず

 

早くっ早くっ もうっ 遅いよっ

足踏みしながら待つ私

 

けれど 光の列ときたら のろい のろすぎる

30分待っても まだ来ない  全然全く 来ない

 

まさか 幻? 夢? 

狐の行列じゃないよね 

アイルランドの狐も行列する? 

それともオオカミの行列か?

アイルランドだから まさか妖精?

 

待っていいのか、それとも何らかの行動に移すべきなのか

悩んでいる間に

それでも、ゆっくりゆっくりと光の列は近づいて

 

そして あと100mという所まで近づいた

車のくせに 遅すぎっ と思ったら

 

車? 

変な影が見えるのは、あれは何?

目をじっと凝らす

 

先頭を走っている それは 

 

牛🐮だった!

 

牛が 何十台もの車を後ろに従えて、ぱっぱか

いや違う 

もーもーと ゆっくり走っていた

その速度は、私の早足程度に見える

 

車は追い越しもせず、クラクションを鳴らすこともなく

牛の後を ゆっくりゆっくり ついて来る

 

登ってくる道の左手は ずっと 広々とした牧草地なのに

そちらにいくと言う選択肢は

牛には 思いつかなかったようだ

 

牛と私の目が合った

彼に焦ったり怯えた様子は 全くなかった

むしろ、誇らしげであった

 

彼はスピードを変える事なく とっとこ 通り過ぎ

そして 後に徐行しながら続く

車車車車車 バス 車車車……

 

その後、15分ほどしてバスは折り返して

バス停に辿り着き

無事に私は丘から降りることができた

 

バスの運転手からは 牛について何も言っていなかった

それはそうだ

まさか 牛が先頭を走っているだなんて

彼には わかりっこないのだから