夫の赴任について渡欧した時のことです。
ドイツについてから間もなく、こちらに住むための手続きだから、と
銀行に連れて行かれました。
(私は仕事の関係で、何ヶ月か遅れて渡欧しました。)
個室で私たちを迎えてくれたのは、カチッとした感じの女性。
流暢な英語を話す人でした
(といっても、ドイツ人にはネイティブ並みの英語を話す人が多いのですが)
彼女は書類を取り出しながら、私に向かって、
「あなたのご主人の口座(給与振込口座)を
共同名義口座にする手続きをします。
口座の半分があなたの権利になります。
これを読んで、作ることに同意されたら
ここと、ここと、ここにサインをして下さい」
ヨーロッパではこんな口座があるんだ、と思いながら
渡された書類を読み、
サインして小切手帳を受け取りました。
共同(共有)名義口座というのは、
夫婦や親子など2名の名義で作成した口座のこと。
国によっては、銀行で口座を開く時、
名義を共同にするか、単独にするかを選ぶことができます。
相続の時に複雑な手続きを踏むことなく、
そのまま全財産を引き継ぐことが可能だったり、
口座支払いを差止めされないことが利点で、
欧米では作る人が多いようです。
海外では一般的なようですが、
日本にはこのシステム、ありませんね。
私もこの時初めて知ったので、
そんな口座がこの世にはあるんだ、と驚きました。
夫が口座を共同名義にしたのは、
単に会社でみんながやっているから、という理由だったのかもしれませんけれど
夫の赴任について行くことを選択して仕事を辞め、
ヨーロッパ滞在中の、私個人としての収入は、ほぼ0になりました。
共同名義口座は、そんな私にとって、
(通帳とカードをそのまま「よろしく」と渡されるのとは違い)
社会から私の存在を認めてもらえているようで嬉しかったです。
(共同名義にそういう意味がある訳ではないんですけどね。)
夫の駐在期間が終了して帰国。
改めて、ヨーロッパで慣れ親しんだ共同名義口座が
日本には存在しないことを知りました。
そして、ああ、私は日本に帰ってきたんだ、と実感しました。
共同名義の是非はともかくとして、
選択肢さえないという事実が、
ある意味、とても日本らしいと思ったのを覚えています。
追記:
舅が亡くなって、姑の様子伺いに電話をしていた時の事です。
電話するたび、
姑は終始泣き声で舅の話をしていたのですけど、その中で、
「引き落とし口座が凍結されて、
支払いがされていませんと、いくつもいくつも手紙が来るのよ。
口座変更の手続きをしてるのに、すぐには反映されないとかで
ひっきりなしに手紙が来て、このところ毎日支払いに出かけてるの。
昼間は支払いに追われて、
夜になったらお父さんのことを思い出して泣いてしまうのよ」
夫の兄弟が近くにいて手伝っているので
姑はまだ楽な方かもしれません。
共同名義口座のシステムが日本でも一般的だったら、
多くの人が、事務仕事に翻弄されることなく
故人のことを思う時間を、過ごすことができるかもしれませんね。